中塚式プロダクトデザイン開発法

Interior.
インテリアの門外漢が、ラブホテルの内装を手掛けたらどうなるか。
私達自身興味しんしんで取り組んでみた。
中塚式インテリア開発法。
くたくたになるまでのアイデア出し。現代人の、愛の形。

Typography.
数字だらけの部屋に、 寝転んでみたい。

Geography.
小さな部屋なのに、 都市のイメージ。

Calligraphy.
とにかく、 愛なんだ。 愛の部屋なんだ。

Japanesque.
いやしの和風だけど、 鼓の音、 激しく。

Bauhaus.
Gデザイナーとしてバウハウスが好き。

早稲田大学の建築学科、
入江研究室から突然連絡があったのは、2005年1月のことだった。
2月初旬には、 オリエンテーションがあり、4月にはプレゼンテーションを行なった。
入江研究室の依頼は、東京巣鴨のラブホテル、業界ではレジャーホテルと呼ぶそうだが、そのホテルの10余室の客室をそれぞれ異なるデザイナーに依頼して、個性ゆたかなインテリアをつくろうというものだった。
色っぽい出来事からは一見遠い当社だが、若い社員も多い。
面白いではないか、となった。

面白いといいながら、 率直にいってどこから手をつけていいか分からなかった。住宅の建築に何度か係わった経験から、オーソドクスに発想してもプロにかなう筈がない。
それに与えられた客室が、 約5坪と極端に狭いのだ。
そこで、普段自分たちが自分の手のうちでいじっているグラフィックのパターンや手法を箱という形にして、立体として立ち上げたら、どうなるかと考えたのである。
いまここにご覧いただいているのは、その時、試作した箱たちである。
OHPシートにカラープリンターで出力している。

箱にしてみると、 これがやはり面白いのだ。
タイポグラフィー、 カリグラフィー、 イラストやパターンも、いつも見慣れていてちょっと飽きが来たような手法も、 立体になると俄然生彩を帯びてくる。
1番目のアラビア数字を使った案はカレンダーをヒントにして、 ホテルの竣工予定の05年11月ひと月分の数字をアトランダムに飛び散らせている。
2番目の地図のようなパターンは、 東京渋谷の街路をデザイナーの個性によって、 イラストマップ化している。
3番目の筆文字は、 端的に愛と書かれている。

4番目の黄金色に輝く鼓(つづみ)のパターンは、伝統的な和のパターンを大胆にコラージュしている。
また、 最後のバウハウス案は、 バウハウスのパターンをそのまま引用しているわけではない。
アルファベットの任意の2文字を組み合わせて、 イメージをつくりだしているファッションの世界では、 バウハウスにインスパイアされて、と表現するのだろうか。
当社はいつもこの近代デザインの事跡を横目に仕事している。

そもそも勉強嫌いなのか、 仕事を理屈や理論で引っ張ることはしない。
手を動かして文章の断片を書き、 サムネイルを描き、 また周囲の仲間と話し合うことによって、 アイディアがだんだんと形をなしてくる。
くたくたになるまでやりなさい、 そうすればもののけが、 創造の神が、 天から降りてくる。
これが創業以来唯一の社是である。
ま、 そうしてこうしてここで紹介した5案が、 新大久保の早大理工学部の研究室に並べられたのである。

プレゼンテーションの会場には、 入江教授、 博多講師のほか、 オーナーの森永女史がいた。
彼女は、 親御さんから引き継いだホテルを 現代人の趣向にあった、 グッドセンスなものへと 変革したがっていた。

5案のうちはたしてどの案に決まったか。
5案については、 それぞれバリエーションも提出しており、 正直なところ出し過ぎだった。
私たち自身、 どの案をリコメンドしていいのか、 迷っている状態だった。

ディスカッションの結果、 決定されたのは、 アルファベットのカレンダー案である。これは私たちが社内で“11月のアリス”と呼んでいたものである。
OHP用の透明フィルムで模型をつくっていたせいもあって、 どの案も透明感を重視した仕上げにしようと決めていた。
その提案がそのまま通って、 既存の天井、 壁の上にアクリル板を化粧板として固定し、 このアクリルにカッティングシートを貼りつけた。
いちばん気にしたのは、 数字の大きさである。
大きすぎると心に入ってこない。 小さすぎると、 ただの数字である。
カレンダーとして認識できるかどうかの境目を狙ったのである。
また、 壁とアクリル板の間には、 赤色のLEDライトを入れて自動的に暗闇から徐々にまっ赤な空間へ、 さらに白色の清潔な空間へ変化するよう仕組んでいる。

いままで紹介してきたレジャーホテルは、 巣鴨駅西側、 北へ向って徒歩約5分。
線路に面した“D-CUBE”。私たちの部屋は503号室。
写真の写り映えがするところから、 情報紙、 インターネットで紹介されることもあるようだ。
普通の商品だと、 必ず使って試すところだが、 女性社員にむかって使用感を訊ねるのも気が引ける。
この写真を撮りにいった時の印象は、


1.透明感があり、 クリスタルのなかに入った気分。
2.数字が重なりあって、 幻影をみている感じがする。 不思議。 不思議。
3.意外に清潔感があり、 狭さも気にならない。


しかしこの部屋でいったい何をするのだろう。 いつも違う何か。
静かにメディテーションするのに向いた空間かもしれない。

株式会社中塚大輔広告事務所

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代表取締役 クリエイティブ・ディレクター 中塚吐夢 取締役 アート・ディレクター 松田澄子 プロデューサー 中塚万次郎 グラフィック・デザイナー 宮澤知里
グラフィック・デザイナー 佐久間祐子 顧問 中塚大輔 顧問 中塚純子 内装:デザイナーズホテル「D-CUBE」305号室 住所:東京都豊島区巣鴨1-38-5
電話:03(3946)0015 竣工:2006年10月15日 設計管理:早稲田大学理工学部建築科 入江研究室 入江正之 博多努 ウェブデザイナー 小林けい